「着物はただ着るものじゃない。表現するもの。」
すっと背筋の伸びた佇まいに、目を引く和の美しさ。
まるで、タレントのようなオーラに包まれている、東京で活動をする『かなえ(@canary.kimono)』さん。
実際に会ってみると、明るくて、行動力があって親しみやすい人。
そんなギャップが魅力の“かなえさん”は、東京を拠点に着付け師×モデルとして活動している方。
“着物をまとう意味”について聞いたお話には、伝統という枠を超えて、現代を生きる感性が息づいていました。
京都から東京へ活動を広げるRSD Proが、東京で出会った「文化を纏う表現者」のリアルな声をお届けします。
着付け師×モデルになったきっかけ
ーミズハラー
これまでの、
読者モデルの活動について
教えてください。

かなえさん
読者モデルと言われることも多いのですが、実は雑誌の読者モデルはしていたことはないんです。
学生時代に大学の写真部の友人に頼まれて桜満開の井の頭公園でボートにのりながらポートレートモデルをしたことが、モデルデビューでした。
それから友人の紹介でキャンパス近くにあった撮影会に数ヶ月出させてもらった後、そこで知り合ったマネージャーさんと二人三脚でポートレートモデル活動をするようになりました。
作品撮りや、フォトコンに出すカメラマンさんがメインでした。
ーミズハラー
あっ、
プロのモデルをされていたんですね!
それは大変失礼しました。
着物に興味をもったきっかけは何ですか?

かなえさん
実家のタンスに眠る着物をみてたら、ふと「可愛い…」って思って袖を通したことがきっかけです。
ーミズハラー
Instagramでは、
どのようなことを意識して
投稿されていますか?

かなえさん
着物のハードルを下げることを意識しています。
古来から普段着であったはずの着物ですが、今やハレの日に人に着せてもらう衣装へと立ち位置を変え、自分で着られる人はあまり居なくなりました。
着物も衣服の選択肢の一つぐらいのポジションを取り戻して欲しいなと思って投稿しています。
投稿を始めてみると、着物に対して、高価・ルール・堅苦しいイメージが拭えなくて、興味を持っていても始めの一歩を踏み出す勇気がないという人がたくさんいることに気がつきました。
そんな人たちに私が何かサポートできることはないかな、と模索しています。
『着物モデル』としての視点
ーミズハラー
では次に「着物モデル」としての
視点についてお伺いします。
これまで着物の撮影をする中で、
一番印象に残っている経験を
教えてください。

かなえさん
思い出すのは、昔振袖で撮影会をしたことです。
その時は、普段着物をしていなかったときなので、振袖を着ているだけで、自分の動きに制限をつけてしまって、どんなポーズや表情をしたらいいのか分からなくなってしまったことがありました。
きっとその時は、自分の中に着物はお堅いイメージしかなかったので、崩さない表現しかできずに悩んでいたことですかね。
ーミズハラー
今の僕がまさにそのイメージです。
「着物」と聞くと伝統的な印象が強くて
「崩してはいけない衣装」の感じがします。
撮影時に「着物を美しく見せる」ために
意識していることはなんですか?

かなえさん
着物商品としての撮影はお受けしていないのですが、着物を着て写真を撮るときのコツのご紹介でもよろしいでしょうか??
ーミズハラー
ぜひぜひ、
「着物で写真を撮るコツ」
を聞かせてください。
帯ひもは意外と取れやすいです。
片方だらんと落ちていないかを確認します。
帯が下がっておはしょりが消えていることがあるので、軽く持ち上げます。
腕の長さに対して着物の袖がうんと短い場合は膝を軽く曲げて着物の中に腕を隠します。
帯の上にいろんな紐が出てきてしまっている場合、帯の中に押し込みます。
あとは洋装と変わりませんが、まき肩をなおし姿勢を良くして、首を一つ後ろに直します。
ーミズハラー
着物を着ることで感じる魅力や、
自分自身の変化はありますか?

かなえさん
「ありのままの自分を表現してもいいんだな」「悪く言う人の声に耳を傾ける時間なんてないんだなぁ」って思うようになりました。
自然と周りにも、やりたいことやって、良いとこも困っちゃうところも含めて自分を愛しながら生きている人と出会えることが多くなりました。
ーミズハラー
きっと僕はインスタから
かなえさんの前向きな想いに
引き寄せられたのでしょう。
『着付け師』としての視点
ーミズハラー
次は「着付け師」としての
視点についてお伺いします。
自分で着付けをすることで、
どんな気づきがありましたか?

かなえさん
「着付け師」と言うと、他の方に着付けをする方のことを指すのかなと思います、私は人に(お金を頂くようにきちんと)着付けることは出来ないんです。
お友達に着せてあげることはできますが。。。
着物を着ることも、ただ衣を着るということでしかないと言うことです。
服の正しい着方を、講座に通って習わなければいけないって何か変です。
今は、YouTubeなんかでも着せ方が上がっているので、それ見ながらで大丈夫です。
とにかく着てみる、自分で着て、動いて、気になったところがあれば直す、トライアンドエラーです。
ーミズハラー
素晴らしい発想です。
着物の伝統文化でもある
京都在住の僕にとって、
新しい視点が生まれました。
ーミズハラー
着物を着る人の立場と、
着せる人の立場。
それぞれの視点から感じる
「理想の着付け」とは?

かなえさん
着物雑誌の中のシワひとつない着姿。
衿はこの角度で合わせて、おはしょりは指一本分といったルールは、実は高度経済成長期に作られたんです。
長ーーーい着物の歴史の中のほんの一コマ。その頃に、着物はただの衣類からハレの日の衣装へと姿を変えました。
それを「美しい理想の姿」と捉えて着こなす方は素敵だと思いますが、ただ残念なことにそれが「正しい」と思っていて、他のやり方を「間違っている」と捉えてしまう人がいるんです。
ーミズハラー
確かに。
僕も着物写真を撮ることもあり
着物=特別な日=正しい見せ方に
執着しすぎていました。
でしょ。
中には、通りすがりに着方を注意してくる「着物警察」と呼ばれる人もいて、着物生活初心者の怖いものの一つになってしまっているんです。
私が目指すのはそこではなくて、着物をただの服として日常に来ていた方々の着付けです。
祖母の古い写真アルバムに登場する、昭和のリアル着付けは本当に様々です。
ーミズハラー
かなえさんが言うように、
『伝統×日常』が着物の価値を
広げてくれそうな気がします。
撮影について
ーミズハラー
撮影前に準備したこと、
意識したことはありますか?

かなえさん
着物での撮影といった時の着物のイメージって、人によって違ってきます。
洋服でと言われた時に、Tシャツジーンズなのかワンピースなのかドレスなのか様々あるのと一緒です。
なのでイメージの画像を頂いて、雰囲気や世界観を近づけられたらいいなと考えて準備しました。
ーミズハラー
今回の着物撮影も、
事前に提案してくださったので
助かりました。
ーミズハラー
着物の色や柄を、
魅力的に見せるための工夫は?

かなえさん
着物の雰囲気や世界観に合わせてトータルでコーディネートします。
例えば、格の高い訪問着の着付けとアンティークの着物では、着付けも似合う髪型やメイクも変わります。
ーミズハラー
撮影を通して新たに気づいた「着物の魅力」
「今後挑戦したいこと」はありますか?

かなえさん
「着物は可愛くて着てみたいけど何からやったら良いか分からない」「ちょっと怖そう」と迷ってる人の背中を押してあげたいです。
そう言った人へ向けた『着物ショッピング同行』や『着物でお出かけ会』を企画してみたいです。
ーミズハラー
それすごく良いと思います!
かなえさんは行動的のようで、
すでに準備を進めてそうです。
着物文化と発信
ーミズハラー
現在、着物文化はどのように
変化していると感じますか?

かなえさん
美術品・装飾品としての着物については明るくないので、あまり分からないです。
でもきっと一般の人が数十万数百万の着物を誂えることって増えはしないんじゃ無いかなと思います。
伝統技術や文化継承っていう面で、失って欲しく無いなとは思うものの、私自身新しい着物を仕立てて楽しむという世界線では生きていません…難しい問題ですよね。
それから、実家の押し入れに眠っている誰も着ない着物、手放したい人いるんじゃ無いでしょうか。
実は今、処分された着物でリユース市場がとても潤っているんです。
すごい緻密な作業で時間をかけて織られた希少な素材が売り捨てられてることも珍しくないんです。
暫くはこの市場で一般の方も気軽に着物を楽しめるんじゃ無いかなと思いますので、ぜひチャレンジしてみて欲しいなと思います。
そして、色彩が豊かでカラフルで自由だったアンティーク着物が寿命を迎えようとしています。(絹には寿命があり繊維がはらりと千切れてしまうんです。)
海外からの人気も出て価格が上がっていますが、状態が良くて好みの物に出会えたら、つい手が伸びてしまいます。
なかなか洋服には無い色彩感覚が本当に素敵なんですよね。
洗えるシルクに似た新素材に、古い着物の柄をプリントして復刻させたアイテムも見掛けるようになりました。
現代の衛生観念にも市場の販売価格にもマッチするし、着物を次の世代にも繋ぐという意味で重要な役割を果たしていると思います。
ーミズハラー
InstagramなどSNSを通じて、
どんなメッセージを届けたいですか?

かなえさん
先ほど話しましたが、古くから日本人が身につけてきた着物は、もっと身近であってもいいんじゃないかなと思います。
服の選択肢の一つに着物が戻ってきて欲しいなと思っています。
ーミズハラー
改めて
かなえさんの想いを聞くと、
着物が日常的になる日がくる
ような気がします。
ーミズハラー
最後に、これから着物を楽しみたい人へ、
アドバイスやメッセージをお願いします。

かなえさん
すみません、若干息切れしています…(笑
ーミズハラー
どうもすみません…(笑
着物を着ることに下手とか完璧とかないんです、まずは浴衣でも、木綿でも、実家に眠る訪問着でも..!!!
とにかく着てみて欲しいです。
着ていくうちに、この方が可愛いなとか、ここピシッとするとかっこいいなとか出てくると思うので、あれこれ研究しながら、自分にできる自分が好きなスタイルを見つけていって下さい。
そこまでいったら、あなたは立派な着物沼の住人です。
「沼の底でお待ちしています♪」ーかなえー
ーミズハラー
長時間インタビューに
お付き合いくださって
ありがとうございました!
最後に : 東京と京都、文化と創造のあいだに
今回のインタビューを通じて、東京で活動するクリエイターが持つ視点や価値観の奥深さを改めて感じました。
かなえさんというお人柄は、SNSで見るよりも、柔らかく、優しく、楽しく、でも芯をしっかり持っていて、「話しやすい東京のクリエイター」という感じがしました。
着物という文化を現代に引き寄せ、新しい表現として発信する『かなえさん』の姿には、RSD Proが目指す「事業の魅力発掘」とも通じるものがあります。
RSD Proはこれからも、東京で活躍する多様なクリエイターの方々と出会いながら「地域×個人」の可能性を模索していきます。
次回の「魅力的な人」の記事も、どうぞお楽しみに。
ーかなえさん情報ー
Instagram▶︎@canary.kimono
ー写真撮影ー
Link▶︎シネマティック写真家リョウ